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小説紹介『満願』米澤穂信|読みやすいのに濃厚な内容が魅力。

6つの短編集の詰まったミステリー。
どれも予想を大きく上回る結末に驚かされ続けます。

1つ1つ話は短いのに非常に濃厚な内容で、必ず誰かに話したくなります。 

『満願』作品紹介

本書には6つの短編集が収録されています。
それぞれは独立しているので、どのお話から読んでも問題ありません。

1.「夜警」あらすじ

物語は、ある事件で若い警官 川藤が亡くなったことから始まります。
その事件は、男が刃物を振り回し幅れている現場に駆け付けた際に起こりました。現場には警官が3名駆けつけましたが、襲い掛かってくる犯人に対して川藤は5発の銃弾を発砲しまし銃殺しますが、その際に受けた傷により川藤も命を落としてしまいます。

銃を使用したものの、自らの命と引き換えに犯人に立ち向かった川藤は、勇敢な警官として世間では川藤を支持する声が広がりました。

しかし、川藤と同じ交番に勤務しているベテラン警官 柳岡は、川藤の性格からこの事件に疑問を持ち始めます。

柳岡がたどり着いた歪んだ真実とは・・・。

2.「死人宿」あらすじ

舞台は、たびたび不幸な事故が起きることでも有名な温泉宿。
自殺を図る客が後を絶たないことで「死人宿」と呼ばれていました。
主人公は、かつての恋人である佐和子を探しにこの宿に訪れます。

佐和子は以前に職場での悩みが原因で失踪し、主人公は佐和子の苦悩に気付いてあげられなかったことを後悔し再会を望んでいました。
そしてこの宿で女将をやっていることを突き止めます。

佐和子と再開し、宿に泊まることになった主人公は、佐和子からある相談をされます。
それは脱衣所に置き忘れてあった遺書の持ち主を探してほしいとのことでした。

主人公は持ち主を捜しだし、未然に自殺を防ぐことができるのか・・・。

3.「柘榴」あらすじ

これは美男美女から生まれた双子の話です。

さおりは美人ですが、誰からも好かれていました。
さおりは自分の美しさを自覚しており、周りを見下すような性格でしたが、それを表に出さずに生きてきました。
そして大学で成海と運命の出会いをします。

成海も顔が整っており、誰もが好きにならずにはいられないような男性でしたが、さおりは見事に成海と付き合うこととなり、在学中に婚約まで果たします。

そして生まれてきた双子の娘も母と似て美しく、姉を夕子、妹を月子と名付けました。
そして双子が生まれたことにより、さおりはそれまでの性格から一変し、娘たちを心から愛するようになりました。

しかし幸せな生活が始まるはずでしたが、夫である成海は定職につかないような男でした。
さおりは子供の事を考え、離婚を決意します。
当然、親権は自分のものになると確信していたさおりでしたが、成海に親権が移ります。
理由は、双子へのDVという、さおりには身に覚えのないもので、双子の自作自演であることは、さおりの眼には明らかでした。

経済力のない父を見捨てることが出来ないという双子の優しさに、さおりは悲しさや悔しさを押し殺していきます。

 

しかし、ここで視点が双子の姉 夕子に変わることで
状況が一変します。

母 さおりが気付かなかった夕子の真相とは・・・。

4.「万灯」あらすじ

伊丹は優秀な会社員での発展途上国に派遣され、天然ガスの事業に取り組んでいました。

賄賂など悪行が横行する過酷な地で、天然ガスの事業の拠点としてボイシャク村に目をつけます。
しかしボイシャク村は、ライバル社に務めている森下も狙いをつけていました。

ボイシャク村の村長アランは開発に猛烈に反対し2社の事業が難航します。村長はバングラデシュの未来のために天然ガスが必要であり、他国に渡したくないことを明かし、説得にも応じない様子でした。

諦めかけた2人に村人たちが相談を持ちかけます。
村の発展に賛成派である村人は、反対派のアランを妬ましく思っており、アランの殺害を条件に協力すると話を持ちかけてきました。

覚悟を決め2人はアランを殺害しますが、森下は殺人の重さに耐えきれず一人帰国していきます。
自分の罪を告発されることを恐れた伊丹は、森下の殺害を計画するのでした・・・。

5.「関守」あらすじ

近年奇妙な交通事件が続いている峠の取材で、
主人公はその場所に訪れます。

主人公は峠近くにある店の店主からそれぞれ3つの交通事故の取材をします。話好きな店主は、事故現場から近い店ということもあり、どんどん事故について教えてくれます。

それぞれの事故の被害者は共通点はなく、関連性も見出すことが出来ない主人公。

しかし、情報を聞き出していくことである真実が飛び出してきます。

6.「満願」あらすじ

新米弁護士が、以前お世話になった女性の罪を調査する物語。

以前、司法試験の勉強を陰ながら優しく支援してくれた下宿先の主人である妙子が、殺人罪と死体遺棄罪で起訴されてしまいます。
被害者の男性は、妙子の夫に金を貸していましたが、夫が倒れことにより返済が滞り妙子に借金の返済を迫りました。その際に、男性を殺害してしまいます。

なんとか妙子を助けたいと、面会を試みた新米弁護士の藤井でしたが、以前に妙子から想像できないほど弱っており「もういいんです」と静かに刑に服していました。

裁判の論点となったのは、殺害の計画性の有無。
返済を逃れるための計画的犯行なのか、それとも肉体関係を迫られたことによる突発的なものであったのか。

無実を主張することなくおとなしく刑に服す妙子が、
本当に守りたかったものとは・・・。

おわり

 ☆注意☆

ここからは重要なネタバレを含みますので注意してください。

 

私のオススメは「柘榴」。
「母からDVを受けている」という双子の自作自演に対して、父を想う娘達の優しさを感じる母親。
しかし娘の視点になることで、全く考えもしなかった双子の姉 夕子の企みにゾクっとしました。

中学生はまだまだ子供で、純粋無垢なものと勝手に思い込んでいましたが、とんでもない!
夕子の父に秘めた想いと、それによる母に対する妬み。
自分より美しい女性に対する妬みは、自分の妹にも向けられています。

母の美しさだけでなく、幼少期の性格を色濃く受け継いだ夕子の、子供が純粋であるという思い込みを利用した企みが怖すぎる話でした・・・。

 

他の話も面白いのでぜひ読んでみてください!